乾癬

乾癬とは

乾癬かんせんとは、全身の皮膚にかさつき(鱗屑)を伴う赤い斑点(紅斑)が多発する皮膚疾患であり、皮膚の角化に異常がみられる状態です。

出現する症状によりいくつかのタイプにわかれますが、こちらでは主に尋常性乾癬について解説します。

■尋常性乾癬: 最も高頻度にみられる(約90%)

■滴状乾癬: 小さな皮疹が多発する

■膿疱性乾癬: 膿をもった皮疹がみられる

■乾癬性紅皮症: 皮疹が全身に波及する

■乾癬性関節炎: 関節炎を伴う

尋常性乾癬の症状

尋常性乾癬は主に20〜40代で発症し、男女比では男性の方が多いとされます。

皮膚症状は全身に出現しうるものの、主に頭部や肘、膝、腰や臀部(おしり)など擦れやすいところにみられます。

かゆみはおよそ半数の方でみられ、その程度には個人差があります。

そのほか、爪の変形や爪甲剥離などを高頻度に認めます。

尋常性乾癬の診断

通常、尋常性乾癬はその特徴的な症状から肉眼的に診断することが可能ですが、皮疹の範囲がごくわずかであったり、他の皮膚疾患の可能性も考えられる場合には、皮膚の一部を採取して組織検査(皮膚生検)を行うことがあります。

乾癬の患者さんの皮膚組織では、通常と比較して角質の過剰な増殖(過角化)や表皮の肥厚などがみられます。

尋常性乾癬の治療

乾癬は基本的に慢性に経過する疾患であることから、治療においてはそれぞれの症状をうまくコントロールし、消失もしくはあってもごくわずかで、安定している状態(寛解)を保つことが主な目的となります。

①外用療法

塗り薬(外用薬)による治療は軽症から重症まで適応が広く、以下に示す他の治療法とも併用可能なことが特徴です。

赤みやかゆみ、かさつきなどの症状が強い場合には、皮膚の炎症を抑えるステロイドの外用薬を使用しますが、これらの症状が一旦改善した後には、活性型ビタミンD3製剤と呼ばれる、皮膚の角化異常を抑制する薬剤に切り替えることも検討します。

ただし、腎機能が低下している患者さんでは、活性型ビタミンD3製剤の使用により全身的な副作用(高Ca血症)を呈することがあるため注意が必要です。


ステロイド外用薬

活性型ビタミンD3外用薬
作用抗炎症作用
免疫抑制作用
角化異常の抑制
効果
発現
早い遅い
効果
持続
短い長い
主な
副作用
毛細血管拡張
多毛
皮膚萎縮
など
高Ca血症
皮膚の刺激感
など
各薬剤の特徴

乾癬の皮疹が広範囲に出現していたり、細かい皮疹が多発しているなど塗り薬による治療が困難である場合や、塗り薬のみでは症状のコントロールが難しい場合には、他の治療への変更や、併用を行います。

②光線療法(紫外線療法)

紫外線には免疫抑制作用があるため、これを応用して乾癬の炎症を鎮めることが期待できる治療法です。

週に1〜2回の頻度で通院していただき、特殊な医療機器を用いて部分的または全身に紫外線を照射します。

副作用として、紫外線による日焼け様の症状(強い赤みやひりつき、水ぶくれ、色素沈着)を認めることがあり、これらの副作用を回避するため、照射量はそれぞれの患者さんに応じて設定します。

症状が安定した後は、通院の間隔を延ばしたり、一旦終了とします。

③内服療法

尋常性乾癬に対しては、飲み薬での治療も可能です。

それぞれの薬剤には注意すべき点もあるため、当院では患者さんのご希望も踏まえた上で、適切な薬剤の提案をさせていただきます。

(1)レチノイド(チガソン®)

ビタミンA誘導体であり、皮膚の角化異常を抑制する働きがあります。

通常は1日1回、1錠(10mg)の内服から開始し、症状に応じて増量を検討します。

生じうる副作用としては、口唇炎や鼻腔の乾燥、口内炎などの粘膜症状、皮膚の菲薄化(薄くなること)、脱毛などが挙げられます。

また、催奇形性の報告があり、妊娠中または妊娠の可能性がある女性に対しては禁忌となっています。

投与中や投与後も女性は2年間、男性は半年間の避妊が必要であることから、当院では若年の方には使用を推奨しておりません。

メリットとしては、他の飲み薬と比較すると安価であることが挙げられます。

(3割負担で1日1回1錠内服の場合、3090円/月程度)

(2) シクロスポリン(ネオーラル®)

免疫抑制薬に分類される薬であり、アトピー性皮膚炎など他の皮膚疾患でも使用することがあります。

体重換算で初期の内服量を決定しますが、効果発現、副作用ともに血中濃度に依存するため、内服中は定期的な血液検査(モニタリング)を行う必要があります。

主な副作用として腎機能障害、血圧上昇(高血圧)、頭痛、感染症などが挙げられます。

併用禁忌薬が多いこと、光線療法と併用ができないことにも注意が必要です。

(3)アプレミラスト(オテズラ®)

アプレミラストは2017年に発売された薬剤であり、PDE4という酵素の働きを阻害することで乾癬の炎症を抑制する働きがあります。

初期に下痢や胃の不快感などの消化器症状がみられることが多いため、最初は2週間かけて徐々に内服量を増量していきます。

(4)デュークラバシチニブ(ソーティクツ®)

デュークラバシチニブは2022年に発売された比較的新しい薬剤であり、TYK2という酵素の働きを阻害し、乾癬の炎症症状に対して効果を発揮します。

1日1回、1錠(6mg)を内服し、増量は認められていません。

主な副作用としては上気道感染、単純ヘルペスや帯状疱疹、ざ瘡(ニキビ)様皮疹、血液中のCK(クレアチニンキナーゼ)値上昇などが報告されています。

他の薬剤と異なり、投与前に胸部レントゲンもしくはCT検査、および血液検査による感染症のチェックが必要となります。

④注射療法(生物学的製剤)

2010年にインフリキシマブ(レミケード®、点滴薬)とアダリムマブ(ヒュミラ®)が乾癬に適応となって以降、TNF-α阻害薬、IL-12/23阻害薬、IL-17阻害薬といった様々な種類の注射薬が発売されています。

いずれも、炎症に関わるタンパク質(サイトカイン)の働きを抑えることで、乾癬の炎症に対する効果が期待できる、「生物学的製剤」と呼ばれるタイプの薬剤となります。

生物学的製剤の導入は日本皮膚科学会の認定施設で行う必要があるため、使用を希望される方は基本的に連携医療機関へのご紹介となります。

また、一般に他の治療法よりも高額となりますが、年収に応じて高額療養費制度を利用することが可能です。

最後に

主に尋常性乾癬の治療について解説しました。

当院の院長は大学病院で乾癬の専門外来に携わっていた経験もございますので、乾癬の症状でお困りの際はお気軽にご相談ください。