ヒゼンダニの感染症、疥癬(かいせん)について【皮膚科専門医が解説】

目次

はじめに: 疥癬とは

疥癬かいせんは、ヒゼンダニというダニが皮膚の角質層に寄生することで発症する感染症です。

ヒゼンダニは集団生活や性行為などによってヒトからヒトへ感染し、ときに家庭内や病院の病室などで複数の患者が発生する、いわゆる集団感染を起こすこともあるため注意が必要です。

なお、疥癬に感染すると皮膚に発疹やかゆみを生じますが、これらはヒゼンダニの虫体や脱皮した殻などに対するアレルギー反応と考えられています。

今回は疥癬の症状や治療、感染対策について解説します。

疥癬の症状

疥癬は発症様式によって「通常疥癬」と「角化型疥癬」(以前は「ノルウェー疥癬」の名前でも知られていました)の2つのタイプにわけられます。

①通常疥癬

一般的にみられるタイプで、体に寄生しているヒゼンダニの数は5匹以下とされていますが、特にステロイドなどの免疫抑制剤を使用中の方や糖尿病、高齢者など免疫機能が低下している方では、より多くのヒゼンダニが寄生することもあります。

感染力は比較的低く、患者が使用した寝具を使用したり、長時間手をつなぐなど、濃密な接触が感染のリスクとなる一方で、短時間の接触や衣類などを介して感染することは少ないと考えられています。

感染した際には、通常1〜2か月の無症状の期間(潜伏期)を経て発疹やかゆみが現れるため、疥癬の患者さんと接触してからしばらくは発症に注意する必要があります。

皮膚症状は、①ヒゼンダニが角質内を掘り進んで通った後にできる、白い線状の「疥癬トンネル」、②腹部や胸部、わきの下、太ももなどに発生するかゆみの強い赤いぶつぶつ、③主に男性の外陰部に見られるかゆみの強い盛り上がり、などに分けられますが、②や③の発疹はヒゼンダニの虫体に対するアレルギー反応と考えられており、発疹の中にヒゼンダニそのものが存在していることは稀です。

②角化型疥癬

重篤な基礎疾患を有する方や免疫力の低下している方、通常疥癬に対してステロイド外用薬などの誤った治療をしている方などで発症することがある、疥癬の重症型です。

多数(100〜200万匹以上)のヒゼンダニが体に寄生している状態であり、感染力が非常に強いことが特徴です。

通常疥癬とは異なり、皮膚から剥がれた角質内にも多数の虫体が存在しているため、短時間の接触や、直接接触以外でもシーツなどの間接接触を介して感染が拡大することがあります。

感染後の潜伏期間も通常疥癬と比較して短い傾向にあり、数日から数週間程度のことも珍しくありません。

皮膚症状はざらざらとした分厚い角質が手や足、おしりなど摩擦を受けやすい部位を中心として全身に広がり、場合によって爪にも角質の増殖がみられます(爪疥癬)。

疥癬の診断

通常疥癬、角化型疥癬ともに、以下の2つの方法で診断を行います。

①顕微鏡検査

通常疥癬では疥癬トンネルをはじめとする発疹を、角化型疥癬では分厚くなっている角質の一部を採取し、プレパラートに載せて顕微鏡で観察します。

顕微鏡でヒゼンダニの虫体や虫卵が確認できれば、確定診断となります。

②ダーモスコピー検査

ダーモスコープという拡大鏡を用いて角質に寄生しているヒゼンダニを直接確認する方法です。

疥癬トンネルの先端部など、適切な部位を拡大すると、ヒゼンダニの体や足が確認できます。

疥癬の治療

疥癬と診断された際には、以下のような薬剤を用いて治療を行います。

①内服薬(飲み薬): ストロメクトール®錠

ストロメクトール®錠(イベルメクチン)はヒゼンダニをはじめとするダニや寄生虫の駆虫薬であり、疥癬においては体重に応じて以下の量を1回、水で内服します。

体重(kg)3mg錠数(錠)
15-241
25-352
36-503
51-654
66-795
80kg以上(200μg/kg)
イベルメクチンの用量

なお、食事の内容によっては薬剤の吸収率が上昇してしまう可能性があるため、空腹時に内服するのが望ましいとされています。

体重15kg未満の小児や妊婦に対する安全性は確立していない点に注意が必要です。

②外用薬(塗り薬): スミスリン®ローション

2014年に発売されたスミスリン®ローション(フェノトリン)はピレスロイド系に属する駆虫薬であり、1回1本(30g)を首から下の皮膚に塗布し、塗布後12時間以上経過した後に入浴やシャワー等で薬剤を洗浄、除去します。

治療回数は1週間隔で最低2回の塗布が推奨されています。

また、小児では体表面積が小さいことから、1回の使用量を適宜減量します。

疥癬治癒後も続く「かゆみ」について

上記のような治療を終了後、ヒゼンダニが皮膚から検出されず、また疥癬トンネルなど疥癬に特徴的な皮膚症状が新たに出現しないことを確認して治癒判定を行いますが、治癒後も発疹やかゆみ(疥癬後瘙痒そうよう: post-scabietic pruritus)が長期間にわたり残る場合があります。

しかしながらこれらの症状においては疥癬の存在は確認されないことから、漫然と疥癬の治療を続けるのではなく、適切なタイミングで保湿剤やステロイド薬の外用、抗ヒスタミン薬などかゆみを抑える内服薬の使用に切り替える必要があります。

疥癬の感染予防

ご家族の中で疥癬が発生したり、医療従事者などで疥癬の患者さんと接触する機会のある方では、以下のような感染対策が推奨されています。

①通常疥癬

通常疥癬ではヒゼンダニの感染力は強くないことから、接触(処置)ごとの手洗いは励行されているものの、布団の消毒や殺虫剤の散布等は不要であり、洗濯も通常の方法で良いとされています(ただし洗濯物を運搬する際には皮膚から剥がれた角質が飛び散らないようにポリ袋などに入れることを推奨)。

ご家庭や病室で、疥癬に感染した方と雑魚寝状態の場合、同室者には予防治療を検討します。

②角化型疥癬

角化型疥癬が発生した場合、集団発生を予防するため、通常疥癬よりも強力な感染対策が必要となります。

具体的には、個室への隔離や身体介護時の予防衣・手袋の着用、洗濯時は熱乾燥の併用や事前に洗濯物を密閉してピレスロイド系殺虫剤噴霧を行うことなどが推奨されています。

同室者は症状の有無を問わず予防内服を検討します。

最後に

疥癬の症状や治療、感染対策について解説しました。

特に通常疥癬においては寄生しているヒゼンダニの数が少ないことから虫体の検出が困難な場合もあり、疥癬が疑われる場合には慎重に症状の変化を追っていくことが確定診断に至るコツともいえます。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

(参考文献: 疥癬診療ガイドライン(第3版) 日皮会誌 2015; 125(11): 2023-2048.)

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