掌蹠膿疱症の診断・治療について【皮膚科専門医が解説】

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はじめに: 掌蹠膿疱症とは

掌蹠膿疱症しょうせきのうほうしょう(palmoplantar pustulosis: PPP)とは、手のひらや足の裏に膿疱のうほう(膿をもった水ぶくれ)を中心とする皮膚症状が生じる疾患です。

通常、膿は細菌感染などで生じることが多いですが、掌蹠膿疱症の場合は膿の中に菌がいない(無菌性膿疱)ことが特徴です。

日本ではおよそ14万人の患者さんがいると推定されており、女性に多くみられ、そのほか喫煙者の発症率が高いことが知られています。

2022年に日本皮膚科学会より、掌蹠膿疱症の診断や治療に関する手引きが示されました。

今回はこの手引きに準じて、疾患について解説します。

掌蹠膿疱症の症状

掌蹠膿疱症の症状としてもっとも有名なものはその名の通り「膿疱(膿をもった水ぶくれ)」ですが、それ以外にも膿をもたない小さな水ぶくれやかさぶた、かさつき、赤みなどの症状が手のひらや足の裏にみられます。

これらの症状は全て揃うわけではなく、また膿疱もタイミングによっては消えていることがあるため、受診時に膿疱がみられない場合でもその他の症状によっては掌蹠膿疱症を疑う必要があります。

症状が出現する部位に関しても、手か足のどちらか一方であったり、左右非対称となることが珍しくありません。

また、掌蹠外病変といい、膿疱が手足を超えて足の甲や膝、肘などにみられることがあります。

患者さんのうち3割程度は皮膚に加えて爪にも症状が出ると言われており、爪が分厚くなる、黄色くなる、でこぼこになるなどのさまざまな症状がみられます。

さらに、一部の方では前胸部の痛みを特徴とする骨関節症状(掌蹠膿疱症性骨関節炎: pustulotic arthro-osteitis: PAO)を伴うことがあり、痛みによって生活の質(quality of life: QOL)が障害されます。

掌蹠膿疱症の診断

掌蹠膿疱症と似た症状を呈する疾患には、足白癬(水虫)、膿痂疹のうかしんをはじめとする感染症のほか、膿疱性乾癬など膿疱を生じる疾患、接触皮膚炎などの湿疹やアレルギー性疾患、掌蹠角化症などが挙げられます。

掌蹠膿疱症の診断を行う際には、これらの疾患を鑑別する必要があります。

主な鑑別疾患および検査方法を以下に示します。

疾患名検査法ポイント
足白癬KOH法(顕微鏡)顕微鏡で真菌の存在を確認
膿痂疹細菌培養検査培養検査で細菌の存在を確認
膿疱性乾癬ダーモスコピー(※)
皮膚生検
全身に膿疱や赤みを伴うことが多い
好酸球性膿疱性毛包炎ダーモスコピー
皮膚生検
全身に膿疱を伴うことが多い
病理(皮膚生検)では膿疱内部に好酸球を多数認める
接触皮膚炎問診原因物質が接触した部位に一致して症状が出る
掌蹠膿疱症の主な鑑別疾患

※ダーモスコピー: 特殊な拡大鏡を用いて皮膚表面を詳細に観察する検査法

掌蹠膿疱症の治療

掌蹠膿疱症が発症する仕組みはまだ根本的には解明されておらず、治療は①生活習慣の改善、②悪化因子の除去、そして③対症療法としての局所および全身療法が中心となります。

①生活習慣の改善

掌蹠膿疱症の約80%で病巣感染(特に歯性病巣、病巣扁桃へんとう(※))、喫煙などが発症に関与していることから、禁煙や口腔ケア(口の中を清潔に保つ)などの生活習慣の改善が有効と考えられています。

※病巣扁桃: 扁桃そのものは無症状あるいは軽微な症状であるにもかかわらず、それが原因となって皮膚など扁桃から離れた臓器に疾患が引き起こされる状態

②悪化因子の除去

歯槽膿漏などの歯の病巣が見つかった際には、歯科での治療を行います。

歯科金属の除去に関してはその有効性に議論があり、病巣の治療をしても改善しない場合に金属パッチテスト(※)を行った上で検討します。

また、経過から病巣扁桃が強く疑われる例などでは扁桃摘出術を考慮しますが、手術の適応についてはリスク(手術によって被る可能性のある不利益)とベネフィット(利益)を勘案して決定する必要があります。

その他、副鼻腔炎があれば耳鼻科での治療を行います。

※当院では現在金属パッチテストの取り扱い予定はありません

③対症療法としての局所および全身療法

掌蹠膿疱症の皮膚症状に関しては、副腎皮質ステロイドをはじめとする塗り薬がよく用いられます。

また、紫外線療法を行うこともあります。

局所療法のみで効果が乏しい場合は、全身療法を検討しますが、歯や扁桃に明らかな病巣がある場合、免疫抑制効果のある全身療法は可能な限り避けます。

局所療法: 副腎皮質ステロイドや活性型ビタミンD3の塗り薬、紫外線療法など

全身療法: シクロスポリン内服、エトレチナート(チガソン®)内服、注射薬(生物学的製剤)など

最後に

掌蹠膿疱症の原因はまだ完全には解明されていないものの、病巣感染のコントロールや禁煙に加えて、局所療法、全身療法を組み合わせることで症状の改善が期待できます。

皮膚症状でお困りの際には病院を受診することをお勧めします。

掌蹠膿疱症については以上です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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