帯状疱疹ワクチンについて【生ワクチンと不活化ワクチンの効果の違いなど】

【今回のポイント】

■帯状疱疹ワクチンには生ワクチンのビケン®と不活化ワクチンのシングリックス®の2種類があります

■どちらも50歳以上の帯状疱疹予防に適応がありますが、有効率や免疫の持続期間が異なります

■免疫抑制状態の方や妊娠中の方は、生ワクチンは接種できません

■ご自身の希望や、適応を考慮して、接種するワクチンを選択しましょう

目次

はじめに

今回は、帯状疱疹ワクチンについてのお話です。

特に生ワクチンと不活化ワクチンの違い、予防効果などについて解説します。

帯状疱疹の増加と水痘(水ぼうそう)の関係性

実はここ数年間、日本国内で帯状疱疹にかかる方は増加の一途を辿っています。

宮崎県皮膚科医会による帯状疱疹の調査「宮崎スタディ」では以下のような事実が示されました。

・帯状疱疹は, 年々増加傾向にあり、1997年〜2017年の21年間で、帯状疱疹の年総数は54.5%増加し、平均発症率も68.1%上昇した。

・帯状疱疹は50代から急激に増加し、数のピークは、男女とも60代で、率のピークは、女性は70代、男性は80代であった。

(国立感染症研究所 IASR(病原微生物検出情報) Vol. 39 p139-141)

このように帯状疱疹の発症数・発症率とも増加している要因として、水痘(水ぼうそう)の減少によるブースター効果の減弱が挙げられます。

ブースター効果とはウイルス抗原に接触することによって体内の免疫機能が上昇することを指します。

水痘と帯状疱疹の原因ウイルスは同一(正式名称は「水痘・帯状疱疹ウイルス」です)のため、かつては水痘の流行期にウイルスに接することで帯状疱疹に対する免疫力が保たれていましたが、水痘ワクチンの定期接種開始により水痘自体が激減したことで、ブースター効果が得られなくなり、結果として帯状疱疹のウイルスに対する免疫力が低下し、発症する方が増えてきたと考えられています。

これらの状況を踏まえると、帯状疱疹を発症することの多い50代以上の方が、発症・重症化予防の目的でワクチンの接種を行うことは理にかなっているといえます。

帯状疱疹ワクチンについて

帯状疱疹ワクチンは、その名の通り帯状疱疹ウイルスに対する免疫力を上昇させる効果があります。

現在日本では以下の2種類のワクチンが選択可能です。

(1)生ワクチン「ビケン®」

概要

ビケン®は弱毒化された水痘・帯状疱疹ウイルスを用いた生ワクチンです。

効能・効果は「水痘の予防」「50歳以上の者に対する帯状疱疹の予防」となっています。

生ワクチンのため、免疫抑制をきたす治療を受けている方や、免疫機能に異常がある方は接種できません。

そのため、以前に解説したJAK阻害薬を内服しているアトピー性皮膚炎の方や、ステロイド内服中の方は生ワクチンは接種できず、接種を希望される場合は不活化ワクチンを選択することになります。

また、妊娠中の方や、接種時に発熱がある方、本剤の成分でアナフィラキシーを起こしたことのある方は接種できません。

投与方法は皮下注射で、1回の接種で完了となります。

予防効果

ビケン®の帯状疱疹発症予防効果は約50%です。

また、帯状疱疹後神経痛を約2/3(66.5%)減少できるというデータがあります。

ただしビケン®と同種と考えられる海外の帯状疱疹ワクチン(Zostavax®)の発症予防有効率は60代で64%、70代で41%、80代で18%と、年齢とともに低下していることに注意する必要があります。

また、免疫効果の持続期間は5年程度と考えられています。

メリットとしては、国産の水痘ワクチンとして幼児期の定期接種にも用いられており安全性・有効性が確認されていること、接種が1回で済むこと、後述のシングリックス®よりは安価であることが挙げられます。

(2)不活化ワクチン「シングリックス®」

概要

シングリックス®はウイルスの一部のみを利用し作成された不活化ワクチンであり、病原性はありません。

そのため、生ワクチンを接種できない免疫抑制状態の方(免疫機能に異常がある、免疫抑制剤を使用している)や妊娠中の方でも接種可能です。

適応は帯状疱疹の予防のみであり、水痘ワクチンとしては使用されていません。

生ワクチンと同様、接種時に発熱があったり、本剤の成分でアナフィラキシーを起こしたことのある方は接種できません。

投与方法は筋肉注射で、合計2回の接種が必要です。

予防効果

シングリックス®の発症予防効果は50歳以上で97.2%、70歳以上で91.3%となっています。

また、最近になって接種から7年後でも84%の有効率があるというデータが示されました。

帯状疱疹後神経痛の予防効果は、50歳以上で減少率100%、70歳以上で減少率85.5%でした。

これらの結果から、帯状疱疹の発症予防効果、免疫効果の持続期間、帯状疱疹後神経痛の予防効果のいずれも生ワクチンに比べて有効と考えられます。

デメリットとしては筋肉注射であり副反応に注意が必要な点、2回の接種(2か月〜6か月の間隔をあける)が必要な点、生ワクチンと比較して高価である点が挙げられます。

副反応

シングリックス®の接種に際しては、副反応として接種時痛、接種部位の発赤・腫脹などの局所反応に加えて、筋肉痛、頭痛、発熱などの全身反応が報告されています。

局所反応は1回目と2回目の接種でそれほど頻度は変わりませんが、倦怠感や筋肉痛、頭痛などの全身反応は2回目の方がやや多い傾向がみられています。

帯状疱疹ワクチンを接種する場合、どちらがよいか?

帯状疱疹のワクチンに関して表にまとめました。

スクロールできます
ビケン®シングリックス®
種類生ワクチン不活化ワクチン
接種回数1回2回
接種方法皮下注射筋肉注射
発症予防効果51.3%97.2%
帯状疱疹後神経痛
予防効果
66.5%100%
妊婦禁忌接種可能
免疫低下状態禁忌接種可能
帯状疱疹ワクチンの比較

2つのワクチンを比較すると、 何らかの理由で生ワクチンを接種できない方や、帯状疱疹の発症予防や帯状疱疹後神経痛の予防効果を優先する方はシングリックス®を、1回の接種で済む利便性や価格を優先する方はビケン®を選択する、といった使い分けが可能と考えられます。

ただし、ビケン®の場合は5年程度で免疫が落ちてくるため、長期的には複数回の接種を要する可能性があります。

当院でも開院後に帯状疱疹ワクチンの接種が可能となるよう調整中ですので、詳細が決まりましたら再度お知らせいたします。

帯状疱疹ワクチンについては以上です。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

参考文献: 宮津 光伸. 帯状疱疹ワクチン. medicina 2022; 59(3): 554-561.

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