単純ヘルペスの治療【新しい治療法PITと、再発抑制療法】

【今回のポイント】

■単純ヘルペスの感染症には口唇ヘルペスやヘルペス性歯肉口内炎、性器ヘルペスなどがあります

■感染に対する治療は、5日間の抗ウイルス薬内服が一般的ですが、PITという新しい治療法も出てきています

■繰り返す性器ヘルペスに対しては再発抑制療法が適応になる場合があります

目次

単純ヘルペスについて

(1)単純ヘルペスの症状

単純ヘルペスは単純ヘルペスウイルス(herpes simplex virus: 以下HSV)による感染症です。

HSVには1型(HSV-1)と2型(HSV-2)が存在し、以前は1型が口唇ヘルペス、2型が性器ヘルペスの原因とされてきましたが、近年は1型による性器ヘルペスも増加傾向です。

その他、HSVによって歯肉炎や口内炎を生じることもあります。

また、アトピー性皮膚炎の方に合併しやすいカポジ水痘様発疹症は、湿疹部位に主に1型のヘルペスウイルスが感染することによって生じます。

(2)単純ヘルペスウイルスの感染様式

HSVは通常、皮膚の細かい傷や口腔、眼、生殖器の粘膜から侵入してヒトに感染します。

最初の感染時に皮膚症状を呈することは少ないとされていますが、一部の乳幼児や免疫抑制状態の方では発熱やリンパ節の腫れを含む激しい症状が出る場合もあります。

体内に侵入したHSVは顔面や腰部の神経に到達し、普段は神経にある細胞の中でおとなしく潜んでいますが、ストレスや他の感染症を契機に再活性化して皮膚症状をしばしば繰り返します。

以下、HSV感染症の中でも比較的多くみられる口唇ヘルペスと性器ヘルペスについて、詳しい症状と治療法をそれぞれ解説します。

①口唇ヘルペス

症状

口唇ヘルペスは主に1型のHSVの再活性化で生じます。

成人のHSV感染症ではもっともよくみられるタイプであり、およそ半数の方では皮膚症状が出現する1〜2日前に同じ部位に痒みやほてり、ピリピリとした痛み、違和感などを感じます。

皮膚症状は浮腫性紅斑(膨らんだような赤み)のほか、水疱(水ぶくれ)が出現し、通常はかさぶたを伴って1週間程度で治癒します。

治療

(1)抗ウイルス薬の内服/外用

口唇ヘルペスに対しては、感染しているHSVの勢いを抑えるため、抗ウイルス薬の内服を考慮します。

何らかの理由で内服が難しい場合は、外用薬(塗り薬)による治療を行うこともあります。

HSVの治療に用いる主な内服薬(飲み薬)を以下に示します。

スクロールできます
バルトレックス®ファムビル®
一般名バラシクロビルファムシクロビル
通常量
(単純ヘルペス)
1回500mg
1日2回内服
1回250mg
1日3回内服
内服期間5日間5日間
禁忌本剤の成分あるいは
アシクロビルに対する
過敏症の既往
本剤の成分に対する
過敏症の既往
注意点腎機能に応じた
用量調整必要
腎機能に応じた
用量調整必要
薬剤費
(3割負担、通常量)
733円*1,441円*
各薬剤の比較

*2023年2月4日時点での先発品価格。どちらの薬剤も比較的安価な後発品(ジェネリック)が存在します。

(2)PIT

PIT(patient initiated therapy)とは、あらかじめ薬剤を処方しておき、単純ヘルペスの初期症状を自覚した時点で、患者さんの判断で内服を開始する治療法です。

海外ではone-day treatmentやsingle-day treatmentと呼ばれ、以前から単純ヘルペスに対する一般的な治療として認識されていましたが、日本でも2019年よりPITでの治療ができるようになりました。

2023年2月現在、ファムビル®のみがPITに適応のある薬剤となっていますが、今後アメナリーフ®という帯状疱疹の飲み薬も、単純ヘルペスに対するPITで使用可能になる予定です。

PITの適応は、同じ病型のヘルペス感染を概ね年3回以上繰り返す方となっていますので、例えば年1回ずつ口唇ヘルペスと性器ヘルペスを生じる方などは適応になりません。

また、1回の受診で複数回分の処方をすることはできませんので、処方された薬剤を使用した後は、その都度受診が必要となります。

ファムビル®を用いたPITの内服方法は「1回1000mg・2回内服」です。

②性器ヘルペス

症状

性器ヘルペスは思春期以降の男女に発生することが多く、主な原因ウイルスは2型のHSVですが、近年は1型によるものが増えています。

口唇ヘルペスと同様に、皮膚症状が出現する前に前駆症状としての痒みや違和感を感じる方が多いようです。

皮膚症状は赤みや水ぶくれで始まりますが、症状が悪化するとその後に潰瘍を形成することもあります。

治療

(1)抗ウイルス薬の内服/外用

(2)PIT

性器ヘルペスは、口唇ヘルペスと同様に、抗ウイルス薬の飲み薬や塗り薬、もしくはPITで治療を行います。

使用できる薬剤の種類に関しても、口唇ヘルペスと変わりません。

(3)再発抑制療法

性器ヘルペスに特徴的な治療法として、概ね年6回以上再発を繰り返す方は、再発を抑える目的で毎日抗ウイルス薬を内服することが可能です。

この場合、使用できる薬剤はバルトレックス®(もしくは同一成分のバラシクロビル顆粒)のみとなっています。

再発抑制療法を行う場合、通常の内服方法は「1回500mg・1日1回内服」ですが、途中で再発を認めた場合には治療量である「1回500mg・1日2回内服」に増量します。

最後に

単純ヘルペス感染症は、その病型(口唇・性器)にかかわらず、「いつ再発するかわからない」といった不安や、再発した際の痛み、皮膚症状から、QOL(quality of life: 生活の質)を低下させる疾患といえます。

当院では単純ヘルペスの早期発見・治療に努めるほか、適応のある患者さんにはPITや再発抑制療法も適切に導入していく方針です。

単純ヘルペスについては以上となります。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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