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注射薬や内服薬(飲み薬)など、薬剤の摂取が原因で生じる発疹を総称して「薬疹」と呼びます。
薬疹はその出現様式(皮膚症状の特徴や薬剤摂取から発症までの時期など)によって様々なタイプに分かれますが、今回はその中でも特殊な「固定薬疹」について解説します。
固定薬疹の最大の特徴は、特定の同じ薬剤を摂取するたびに、同じ部位に皮膚症状を呈することです。
典型的には、薬剤を摂取後数分〜数時間で口唇を含む口の周囲や外陰部などの粘膜移行部、または四肢(腕や足)などに円形の赤紫色の発疹が出現します。
自覚症状としてはかゆみや、ピリピリとした刺激感があります。
皮膚症状は色素沈着を残して治癒しますが、薬剤を摂取するたびに症状を繰り返すことで、色素沈着もだんだんと濃くなっていきます。
固定薬疹では、薬剤を摂取すると同じ部位に症状が出現しますが、これには病変部(症状が出現する部位)の皮膚に存在するリンパ球の一種である「細胞障害性T細胞」が関与していると考えられています。
すなわち、体内に取り込まれた薬剤によって、これらのリンパ球が活性化し皮膚の症状(赤紫色の発疹、かゆみ)を呈するのですが、体の他の部位に存在するリンパ球は活性化せず、「活性化する→皮膚症状(+)」部位と、「活性化しない→皮膚症状(-)」の部位がはっきりわかれるという考え方です。
固定薬疹の原因となる薬剤は、主にアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛薬、レボフロキサシンなどの抗菌薬、カルボシステインなどの鎮咳薬(咳止め)や、総合感冒薬です。
当然、これらの薬剤を摂取してもほとんどの方は薬疹を発症することはありませんが、明らかな固定薬疹の症状を呈している場合、上記のような薬剤を中心に、過去の薬剤摂取歴を問診させていただくことになります。
例えば、毎月定期的に皮膚症状が出る方の場合、生理痛や頭痛に対して解熱鎮痛薬を内服していないか、などを確認します。
通常の固定薬疹は、一般的には原因薬剤の中止によって治癒し、重症化することはありませんが、症状の部位が広範囲にわたっている場合(多発性固定薬疹)は、まれに重症型の薬疹であるTEN(中毒性表皮壊死症)に進展することがあります。
重症薬疹に対しては、入院の上でステロイドの点滴投与を含む治療を要しますので、薬剤摂取後に多発する発疹を認めた際には医師に相談しましょう。
固定薬疹の診断に至った場合、ほとんどは皮膚症状が出現する直前に摂取した薬剤が原因と容易に推定できます。
しかし、同時に多数の薬剤を摂取していたり、他の疾患との鑑別が難しい場合は、原因薬剤の特定のために血液を用いたアレルギー検査(DLST)や、パッチテストの施行を検討します。
パッチテストを行う場合は、発疹が出た部位に薬剤を貼付すると陽性率が高まるため、診断に役立ちます。
ここ10年ほどの話題としては、トニックウォーターによる固定薬疹が挙げられます。
従来は固定薬疹といえば文字通り薬剤が原因、という認識でしたが、トニックウォーターに含まれる成分である「キニーネ」により、同種の症状が出現した例が報告されるようになりました。
ジントニックを飲んだ後に必ず発疹が出る、という方は、キニーネが原因の可能性があります。
ただし、この場合でもジントニックそのものを避ける必要はなく、キニーネを含まないトニックウォーターを選ぶことで症状の出現を回避できます。
固定薬疹について解説しました。
典型的な固定薬疹は、皮膚科専門医であればさほど迷うことなく診断をつけることができますが、いわゆる「全身に赤みが出る、典型的な薬疹」ではないため、原因がわからずに見逃されている例も少なくないものと思われます。
自分の症状は固定薬疹かもしれない、と思われた方はぜひ一度皮膚科にご相談ください。
ここまでお読みいただきありがとうございました。