【原発性腋窩多汗症の治療薬】エクロック®ゲル/ラピフォート®ワイプについて【皮膚科専門医が解説】

目次

はじめに: 腋窩多汗症とは

腋窩えきか多汗症とは、体の限局した部位から多量に発汗がみられる「局所多汗症」のうち、腋窩(わき)に症状が現れるものを言います。

特に日常生活に支障をきたすほど多量の汗が、明らかな原因がないまま6か月以上持続し、以下の6症状のうち2項目以上あてはまる場合には「原発性腋窩多汗症」と診断されます。

【参考】原発性局所多汗症の診断基準
・発症が25歳以下である
・左右対称性に発汗がみられる
・睡眠中は発汗が止まっている
・1回/週以上の多汗のエピソードがある
・家族歴がみられる
・それらにより日常生活に支障をきたす

日本皮膚科学会「原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版」日皮会誌 2023; 133(2): 157-188.

日本皮膚科学会のガイドラインでは、原発性腋窩多汗症の診断に至った場合、まず行う治療として「抗コリン外用薬」や「10〜20%塩化アルミニウム単純外用」が挙げられています。

今回はこの「抗コリン外用薬」として近年発売された、エクロック®ゲルとラピフォート®ワイプの2つの薬剤について解説します。

エクロック®ゲル

エクロック®ゲルの概要

エクロック®(一般名: ソフピロニウム臭化物)ゲルは日本で初の、原発性腋窩多汗症に保険適用となった外用薬(塗り薬)であり、2020年に発売されました。

主成分のソフピロニウム臭化物は、交感神経から放出され、発汗を促すアセチルコリンという物質の働きを阻害する(抗コリン作用)ことで、皮膚からの発汗を抑える作用があります。

エクロック®ゲルの使用法

エクロック®ゲルは1日1回、両わきの水気をタオルなどでよく拭き取ってから使用します。

エクロック®ゲルの容器はボトル本体とキャップ、アプリケーター(塗布具)から構成されており、使用する際にはボトル本体からキャップとアプリケーターを外した上で、アプリケーターの上に薬液をのせ、わき全体に塗り広げます。

手で直接薬液を塗ることは推奨されていません。

また、手に薬液がついた場合には、顔や目をさわらずにすぐに水で洗い流してください。

1日1回、両わきに塗布した場合、20g入りボトルが約2週間分、40g入りボトルが約4週間分に相当します。

エクロック®ゲルを使える方、使えない方

エクロック®ゲルは「12歳以上の原発性腋窩多汗症」の方で使用可能です。

12歳未満の小児を対象とした臨床試験は実施されていません。

また、手足など、わき以外の部位の多汗症の方には適応がありません。

抗コリン作用を持つ薬剤により前立腺肥大症や緑内障が悪化することがあるため、エクロック®ゲルは以下の方に対しては禁忌となっています。

・閉塞隅角緑内障の方

・前立腺肥大による排尿障害がある方

・本剤の成分に対し過敏症のある方

エクロック®ゲルの副作用

エクロック®ゲルの副作用として皮膚炎や紅斑、刺激感のほか、全身症状としての口渇、排尿障害、霧視(目のかすみ)などの報告があります。

これらの症状が現れたら使用を中止し、医師に相談してください。

エクロック®ゲルの価格

エクロック®ゲルの価格(薬剤費)は3割負担で20g入りボトルが約1,460円、40g入りボトルが約2,910円となります。

医療機関でしか処方できない薬剤のため、受診の際には他に初診・再診料等がかかります。

ラピフォート®ワイプ

ラピフォート®ワイプの概要

もう1つの抗コリン外用薬であるラピフォート®(一般名: グリコピロニウムトシル酸塩水和物)ワイプは、エクロック®ゲルよりも新しい薬剤であり、2022年に発売されました。

主成分のグリコピロニウムトシル酸塩水和物は、エクロック®ゲルの主成分であるソフプロニウム臭化物と同様、アセチルコリンの作用を阻害することで制汗作用を発揮します。

ラピフォート®ワイプの使用法

ラピフォート®ワイプは、1日1回、両わきのタオルなどで拭き、清潔で乾いた状態で使用します。

薬剤は1枚ずつ袋に入っており、使用する直前に開封したあと、広げたワイプで両わきを一拭きします。

わきを拭く際にはゴシゴシこすらないようにしてください。

使用後は直ちに手を洗い、手についた薬を洗い流します。

ワイプは1回使い切りであり、使用後はお子さんなど他の方が誤って触れることがないように注意し、適切に廃棄してください。

ラピフォート®ワイプを使える方、使えない方

ラピフォート®ワイプは「9歳以上の原発性腋窩多汗症」の方で使用可能です。

9歳未満の小児を対象とした臨床試験は実施されていませんが、エクロック®ゲルと比較しより若年(9歳〜11歳)の方でも使用が可能となっています。

手足など、わき以外の部位の多汗症の方には適応がありません。

また、エクロック®ゲルと同様、以下の方に対しては禁忌となっており使用することができません。

・閉塞隅角緑内障の方

・前立腺肥大による排尿障害がある方

・本剤の成分に対し過敏症のある方

ラピフォート®ワイプの副作用

ラピフォート®ワイプの副作用としては、ドライアイや羞明(光をまぶしく感じる)、霧視(目のかすみ)の他、口渇、排尿困難、接触皮膚炎(かぶれ)などが報告されています。

これらの症状があらわれた場合には、医師に相談してください。

ラピフォート®ワイプの価格

ラピフォートは1回使い切りの薬剤で、3割負担で1包が約79円です。4週間(28包)で約2,200円となり、エクロック®ゲルと比較しやや安価といえます。

医療機関でしか処方できない薬剤のため、受診の際には他に初診・再診料等がかかること、また2022年5月に発売された新規薬剤のため、1年間(2023年4月末日まで)は1回の処方量が2週間分(14日)までと制限があることに注意してください。

最後に

原発性腋窩多汗症の治療に用いる2種類の抗コリン薬について解説しました。

これらの薬剤が発売される前には多汗症の外用といえば塩化アルミニウムが主体であったことを考えると、治療の選択肢が増えたのは非常に喜ばしいことです。

当院では、多汗症の方のライフスタイルを考慮しながら、これらの外用薬を含め様々な治療が提供できるよう、準備をすすめてまいります。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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